戦評: 來山 泰明
土曜日の試合が雨で流れ、この日もグラウンド状況が完璧ではない中で、負けられない戦いが行われた。南山大学は、残り1勝すれば3部Bリーグの優勝が決定する。対する名工大は、南山大学に2連勝すると愛知教育大学との3校での優勝決定戦まで持ち込める。
初回、先攻の南山大学の攻撃を無失点で抑えた先発のリベロ。ここ数週間の調子が悪かっただけに、初回の投球内容には期待が持てた。その裏、名工打線が南山大学の先発エース、戸田に襲いかかる。先頭狩野が初球のストレートを叩き、レフトオーバーのスリーベースヒットを放つ。続く森谷の打席に先制の期待がかけられるが、あえなくピッチャーゴロ。その打球で狩野が飛び出してしまい、タッチアウトとなってしまう。その間に打者走者の森谷は二塁に進塁。3番の加納の三遊間の当たりで、守備の乱れも絡んで走者が2,3塁に残る。続く打者は4番吉田。今シーズンの調子は絶不調。最近ダイエットの成果が出たせいで、打球が飛ばなくなってきている模様。この打席でも空振り三振と結果は出ず、2アウトとなってしまう。ここで打席に向かうのはもう一人の吉田。前の試合の最終打席でレフトへホームランを放っており、本人はいい感触を持って打席に入ったはず。結果は伴った。ストレートに完全に詰まりながら力でセンター前へ運ぶ。詰まった分、センターがライナーの対処に躊躇して後逸。塁上にいた森谷、加納が次々と生還して2点を先制。センターがもたつく間に打った和輝は一気に三塁まで進む。三塁上で嬉しそうな笑顔を見せた和輝が印象的だった。得点が多くは期待できない戸田
から初回
に2点先制できたことは、チームを一気に盛り上げた。
2回、そのいい雰囲気に乗ったように、リベロは三者凡退に抑える。その裏、またも名工打線が牙をむく。先頭の市川がアウトコースのボールを逆らわずにライト前へ運ぶ。今シーズンの始めは不調にあえいでいたが、ここにきて、彼らしいバッティングが見られるようになってきた。無死一塁で、打席は期待の新人熊田。この試合で2安打すれば某先輩からアイスを買ってもらえるらしく、舌なめずりしながら気合を入れる。結果はエンドランでファーストゴロ。一死二塁となって9番松本。公式戦では9番打者での出場が多いため積極的に打ちに行く場面はあまり多くない松本だが、この打席では珍しく初球打ち。ライトフライに終わったが、三塁にランナーを進める。二死三塁となっ
て打順は
1番にかえって狩野。第1打席の初球打ちが影響してか、南山バッテリーは慎重な攻め。四球を勝ち取る。二死1,3塁で第1打席の借りを返したい森谷が思いっきり引っ張って打球はライト線へ。ライトの打球の処理のミスも絡んで三塁打となった。続く加納は勝負を避けられ、ストレートの四球。南山バッテリーは4番吉田との勝負を選択した。初球ファールの後の2球目、打球はファーストへ高いバウンドのゴロ。吉田の足では悠々アウトのタイミングだったが、ピッチャーのベースカバーが遅れた分、頭から滑り込んでセーフ。三塁にいた森谷がホームインしてさらに1点追加。続く和輝はサードゴロに倒れ、3アウト。この回3点を追加し、まだ2回終了時点ながら得点差は5点。
3回に南山大学は走者を1人出すものの無得点。名工打線もこの回からテンポよく投げるようになった戸田の前に三者凡退に終わる。もともと戸田はテンポよくカウントを取っていく投球が持ち味の投手であり、ようやく厄介な本来のピッチングに戻ってきた。
4回は両チームともに三者凡退。
5回は両チームとも1人ずつ走者を出すものの、無得点。試合は硬直状態に入り、早く次の1点を奪って流れを一気に引き寄せたい。
6回、リベロは先頭打者に死球を与えてしまうものの、ファースト吉田のファインプレーも飛び出して無失点に抑える。その裏、先頭市川の四球を足がかりにして一死2,3塁のチャンスをつかむ。ここで狩野がセンターへきっちり犠牲フライを打ち上げ、待望の追加点を奪う。
7回、名工が1点を追加したことでやはり試合が動いた。厳しい判定ながら先頭打者に四球を与え、安打、四球で無死満塁の大ピンチ。この試合で初めてのチャンスに、南山ベンチは俄然盛り上がりを見せる。さらに9番打者にライト前へ運ばれ、1点を返される。絶体絶命のこの場面で落ち着いていたのはキャッチャーの加納だったのかもしれない。緩い変化球を効果的に使い、1番、2番をフライアウト。さらに3番をピッチャーゴロに打ち取る配球で、スタミナ切れのリベロをうまくリードした。結果的に無死満塁を1点で抑え、南山ベンチの押せ押せムードを断ち切った。その後ろには熊田が先頭に立って必死に声を出し続けたベンチの存在もあった。その裏、名工は3番
加納から
の好打順だったが三者凡退に終わる。
8回、先頭にストレートの四球を与えたところでリベロは降板。茅野がマウンドに上がる。リベロの投球数は103球。スタミナ不足を痛感したリベロは、走り込みをすることを強く誓った・・・らしい。僅かな希望にすがろうと思う。茅野の投球練習がそろそろ終わりそうなので、話を戻す。茅野は低めにボールを集め、セカンドゴロでゲッツーに打ち取る。2アウトになった後、ライト線に二塁打を打たれる。しかし、その次の打者をきっちりショートゴロに打ち取り、スリーアウト・・・とはいかないのが何とも歯がゆい。ショートゴロをさばいた松本は1塁へ送球。左足を目いっぱい伸ばしたファースト吉田の右足は、ファーストベースを跨いでしまっていた。慌ててファーストベースにヒップドロップを仕掛けるものの、打者走者の足が先にベースを駆け抜けていた。ここでリズムを崩
さないの
が,茅野の真骨頂。8番打者を難なくライトフライに打ち取って,8回も無失点に抑える。裏の名工大の攻撃,南山のピッチャーは古川に交代する。先頭打者飯吉がバットを一度も振ることなく四球を選ぶ。制球の定まらない代わり端,何とかしていい形でダメ押しの追加点を取っておきたいところ。しかし,サインミスで飯吉が盗塁死してしまう。相手投手がストライクを取れず苦しい中で助けてしまう形となってしまったが,市川がファーストの失策で二塁まで進塁し,何とか出塁する。次打者の熊田,詰まりながらもライト前へ運ぶ。この日2安打。ファーストベース上で,「アイスゲット!」と叫んだのはここだけの秘密。セカンドランナーの市川のスタートが遅れ,この当たりで一気にホームインできなか
ったため「打点ゲット!」とはいかなかった。一死1,3塁となり,打席には松本。一塁走者は來山に代わる。3球目,松本がセーフティースクイズを決め,1点を追加する。二死2塁となり,今シーズン絶好調の狩野。2球目がワイルドピッチとなり,ランナーは3塁に進塁で一打サヨナラの大チャンス。次の甘い球を強振し,打球は左中間へ。しかし,センターに捕球されてしまいがっかり。サヨナラ打を確信していた(?)狩野は突き上げかけた右手をそっとおろした。
何はともあれ,ダメ押しの得点を奪うことができ,気分よく最終回の守りへ向かう名工ナイン。しかしこのままスッと終わらないのが名工クオリティー。先頭をサード市川のエラーで出塁させてしまう。実はこの打球が,記録上はこの試合で市川の初めての守備機会。やっと緊張のほぐれた市川の心の中には,バックネット裏で見つめる祖母や彼を応援してくれる人の黄色い声援が響いていた。9番打者をエラーで出塁させてしまう嫌な流れの中,南山大の1番打者が打席に入る。2球で追い込んで決めに行った3球目,打球は低い弾道で二遊間を抜ける・・・前に茅野のグラブがそれを阻んだ。強烈なピッチャーライナーだったが,それを掴んだ茅野は落ち着いて1塁へ送球。飛
び出た1
塁走者をアウトにした。抜けていればセンター前ヒットは間違いなかっただけに,超ファンプレーだ。名工側は大盛り上がり。南山ベンチには諦めムードが一気に押し寄せていた。2アウトランナーなし。かっこいい自分のプレーを思い出してにやける顔をグラブで隠しながら投げた2番打者への3球目,打球はまたもサードへ。高いバウンドの打球をベース付近で処理し,一塁へ送球したが,セーフとなって記録は内野安打。市川の心中を察するに,早く試合を終わらせたかったはずだが,なかなか簡単にはいかないもの。こんなことにはもはや慣れてしまった茅野は今日1安打の3番打者をセンターフライに打ち取り,ゲームセット。
7-1という想定外の得点差で南山カードの初戦を奪った。2回までに相手先発の戸田から5点取れたことは,南山にコールド負けのプレッシャーを与えることができた。しかし,3回から見せたテンポのいい投球がこのピッチャーの本来の投球であり,次回の対戦では初回から速いテンポで投げてくることは明らか。チームとしての対策を練る必要がある。また,こちらの雑なプレーひとつで勢いづく怖さが南山大学にはある。この日大事には至らなかったミスが攻撃,走塁,守備ともに数多くある。これらをどう少なくしていくのか,この1週間の課題だ。土曜日,絶対勝つぞ!!